本稿では統計モデルとしての状態空間モデルについて基本的な解説を与えるとともに、生態学研究において状態空間モデルを適用することの動機と利点を示し、近年急速に発達した生態学のための状態空間モデルの体系を概観した。状態空間モデルは直接的に観測されない潜在的な変数を仮定することにより、観測時系列データに含まれる2種類の誤差であるシステムノイズと観測ノイズを分離した推定を実現する統計モデルである。生態学では特に個体群動態や動物の移動などの研究において、頑健な統計的推測のための重要な手法として確立している。状態空間モデルは階層モデルの1つと位置づけることができ、観測過程と背後にある状態過程・パラメータの構造を分離したモデル化によって、関心の対象である生態的過程に関する自然な推測を実現できることが大きな利点である。野外調査と統計モデリングの融合を原動力として、状態空間モデルは今後も生態学においてその重要性を増していくものと考えられる。